概要

19th Int'l Conf. on Information Integration and Web-based Application & Services ( iiWAS) という国際会議と併催の Emerging Research Projects and Show Cases ( SHOW 2017)に無事論文が通ったので、口頭発表を行ってきた。

これは、海外に行くのも初めてで、ましてや国際学会で発表するのも初めてな私が、海外での学会発表を通して何を思ったかについて書いた報告書である。
もし、「英語で会話なんてできないし海外へ研究内容を発表に行くのは不安だ......」と思っている学生がいれば、ぜひこの報告書を読んで悩みを払拭し、海外発表へのモチベーションを高めていただければと思う。

海外へ飛び立つ前まで

概要部分では「ぜひ海外へ飛び立とう!」のような、かなりアクティブ人間に見えることを記述したが、実のところ私は海外で発表するまでは日本を出ることに対してかなり消極的であった。
(正直、論文を投稿する際に「日本で開催される国際会議があればそっちに投稿したい......」などと言うくらいヘタレていた)
また、英語についてもうまく話せる自信がなく(TOEIC scoreでいうと大体560くらい)、海外に飛び立つ直前まで、発表準備をしながら毎日怯えていた。(Webに国際学会に関するいくつもの記事があったが、「英語ができなくても問題ないとか言ってもそれは英語がある程度できる教授陣の方々だからだろ!」と思っておりほぼ参考にしていなかった)
だが、研究発表をすることについては後ろ向きな考えではなかったため、「英語での会話や発表で言葉が出なくなる事態は避け、なおかつ聴衆に伝わりやすい発音をする」ことを目指し、毎日自分の書いた論文を40分くらいかけて音読した。(これを発表前日まで約二週間くらい続けた)

現地に着いてから

現地に着いた当初は、英語はカタコトだし公共交通機関の切符の買い方もわからないしといった具合で、非常に戸惑った。(最悪、ずっとホテルに引きこもって生活しようかとすら思った)
しかし、ザルツブルグの現地語はドイツ語であり、なおかつ観光地なため周りからノンネイティブな英語がたくさん聞こえてきて、そんな環境でお互いなんとかコミュニケーションをとっている人々の姿を多々見かけた。そんな環境をしばらくぶらぶらしていると、(んー文法とか発音めちゃくちゃでもなんとかなるか?)と思い始め、自然と英語でコミュニケーションをとることに対して苦手意識が薄れていった。

特に、学会会場に行くとこの現象は顕著に現れ、それぞれが癖のある英語を話しながらも、研究について「紹介し、質問し、回答する」という、少し歪ながらも調和のとれた空間に出会う。その環境で感じたことは、自分の研究を他人に紹介し、意見をもらう場というのは非常に面白いということである。
私が行っている研究は「日本人に対して心理的な作用を与えた」ことを根拠にしているが、海外の人から見てどう思うか、どう感じるかについて意見をもらうことは貴重であった。Coffee break timeやLunchでの会話で発生したこのような会話を通して、私は学会中に少しずつプレゼン発表に対してモチベーションが高まっていった。
学会も終盤になると言語の壁の存在などほぼ意識することがなくなり、「自分の研究を普段と異なるツールを用いていかにわかりやすく伝えるか」ということに集中することができた。

発表について

私はセキュリティの研究をしており、これまでは「セキュリティ」がメインの学会でしか口頭発表を行ったことがなかったが、本会議はWebアプリやWebサービスがメインの会議であるため、従来の聴衆とは知識レベルが全く異なっていた。これに気づいたのが学会1日目の他人の口頭発表を聞いてからであり、「このままでは研究がうまく相手に伝わらないのではないか」という懸念が出た。幸い私の発表は3日目であったため、先生に最後の最後まで指導していただきながら、スライドと口頭での発表内容を約2日で大幅に修正した。
今まで作っていた発表原稿が使えなくなったため発表をどうしようかと少し悩んだが、二週間毎日自分の原稿を読んで英語を頭に叩き込んだことと、学会を通しての英語の経験からプレゼンで使える英語はある程度学習でき、当日は問題なく発表することができた。
(少し悔いが残ることといえば、スライドを操作するPCとスライドが表示されているスクリーンが少し離れていたため、ポインターか遠隔でスライドを操作できる機器を用意しておけばよかったということだろうか。)
プレゼン発表中スライドの写真を撮影をしている方や、発表後に研究内容について議論しにきてくれた方がいたため、相手に興味を持たせることのできる発表ができたのではないかと思う。先生にはところどころ伝えきれなかった研究のポイントを相手に伝えるフォローをしてただいた。
今後は、海外で発表するような事態に備えて、一人で英語の質疑応答に対処できるレベル能力を身につけていきたいと改めて思った。

現地の画像

ザルツブルグは中心街の近くに川が流れ、高台に城が建っている土地であり、街のあらゆる部分を切り取って撮影しても非常に美しかった。
学会のReceptionやDinnerでは、中心街やザルツブルグ城に訪れたため、それらの一部を簡単に紹介する。

図2 学会会場
図3 Welcome Reception会場
図4 ザルツブルグ城(Conference Dinner会場)と街の風景
図5 ザルツブルグ城から見る夜景

また、学会の参加中はCoffee breakやLunch, Welcome reception, Conference Dinnerといった様々なタイミングで、現地の美味しい食事をほぼ毎日食べることができる。
発表前は、「なんで学会参加費ってこんなに高いのボッタクリ??」と思っていた。(日本円で7万円超えるくらい)
しかし、Welcome receptionでは音楽の都で生のオーケストラ演奏を聞いて立食パーティ、Conference Dinnerでは現地のフルコース料理など、正直普通に観光しただけでは楽しめないようなものを学会参加費だけで十二分に楽しむことができた。
現地で食べる料理はどれも美味しかったし、今思うと学会参加費だけでこれだけ楽しめるのは安すぎると思ったほどである。
このような貴重な体験は国内会議では楽しめないので、このような現地の料理やおもてなしを楽しむことができるのも国際会議の素晴らしいところだと感じた。(以下、画像例)

図6 Coffee Breakの食事(Coffeeだけでなくパンやお菓子もいっぱいある)
図7 Lunchの一例
図8 Welcome receptionでの会食(白ワインが地元の名産らしく非常においしい)
図9 Conference Dinnerのメインディッシュ(量が日本の2倍くらいあるので少食の人は配分に気をつけたほうが良いかも)

おわりに

ここまで通して何を書きたかったかというと、国際学会はいいぞ!ということである。
特に、研究が好きで、自分の研究内容について議論する人が好き、という人には、多種多様な方面からコメントをいただけるので、非常に得られるものは多いと思う。
(それでも、やっぱり海外発表には抵抗があるなぁ)と思っている人がいるかもしれないので、私が出発前に抱えていた不安と、帰国後に改めて考えた私なりの回答について簡単に示しておく。


  • 英語での会話、質問が聞き取れるか心配......
    私もリスニング能力はあまり高くない(実際に、入国審査時に「電子機器中に入ってませんか?」という英語を聞き取れなかった)が、正直現地に入って1〜2日程度で慣れる。
    学会始まってすぐに英語が聞き取れる!......となるまではさすがに難しかったが、3日を通して一生懸命辞書を引きながら英語を聞いていれば、大体会話の5, 6割程度は聞き取れて意味がわかるなぁというレベルには上達した。
    それでも聞き取れなかったときは......素直に「ついていけなかったからもう一度ゆっくり話して!」と聞き直せば問題なかった。話す相手もコミュニケーションをとりたくないわけではないので、普通にわかりやすい英単語を使ってもう一度話してくれるのではないだろうか。
  • 英語で話せるか心配......
    これに関しては、自分の知っている単語だけで会話することに努めればそこまで苦労はしないだろう。
    また、現地の人が使っている表現をそのままパクるという方法も使えて、短い間に語彙や表現(あと発音も)はどんどん吸収できるので、本当に心配いらないと思う。
    (私の場合、発表の数時間前で先生とスライドを修正していて発表の読み原稿は全く用意できていない状態だった。出発前の私だったらパニック状態だったと思うが、練習と数日の経験だけでプレゼン程度ならば問題なくできた。)
    また、発音や英文法について心配する人もいるかもしれないが、できるだけ正規のものに近づけようと努力するだけで十分会話はできると思う。
    正直、「英語をきちんと正確に話すこと」にこだわりすぎると話せなくなってしまうので、下手なのを承知でコミュニケーションを取ろうとすることが大切だと実感した。
    これだけ意識しても伝わらないなぁ......という方は、伝わるまであれこれもがいてトライしてみればよいと思う。(所詮コミュニケーションツールが変わった程度なので、ジャスチャーや携帯の画像などを使えば、ある程度の意味を伝えられる。また、どうしても当てはまる単語が出てこないなぁ...と悩んでいたりしても、ある程度意味が伝わっていれば向こうもワードの提示や質問返しをするなどして手を差し伸べてくれる。)
  • 海外でうまく生活できるか心配......
    スリなどの軽犯罪をある程度警戒して対策をとっておけば(外からは見えない体の内側に大切なものはしまう、パスポートを再発行できるだけの準備をする、大使館やカード会社の電話番号を調べておくなど)、あとは現地に行って1~2日で慣れるのであまり問題ではなかった。
    ザルツブルグの現地語はドイツ語だが、観光客も多く英語は普通に通じたため、買い物なども「This "hogehoge", please!」程度でなんとかなるし、ドイツ語でも今はGoogle翻訳で大抵なんとかなった。 チップや食事の味といった我々の文化圏とは違うところは最初だけ戸惑うが、「地球の歩き方」に目を通しておけばすぐに慣れるのではないだろうか。(僕は本当に少ししか読まずバスの路線図を見るときなどに苦労した。今度海外へ行くときはきちんと目を通します)
  • 回りの人たちの研究のレベルが高くて、自分が浮かないだろうか? 発表してボロボロに叩かれないだろうか......
    前に書いた通り、学会に参加している人たちは非常に幅広く、僕の研究分野である「人とセキュリティ」に関して詳しい人は(おそらく)ほぼいなかった。(「Web-based Application & Services」の学会なので当然といえば当然なのだが)
    なので、「どうしてこんな研究しているの?」というのは相手を叩きのめすための枕詞ではなく、純粋に「あまりあなたの研究分野に詳しいわけではないので、教えてください!」という意味がほとんどではないかと感じた。(話してる側の私としても、ビーコンやデータサイエンスについてなどの専門的な話はほぼわからず、細かい部分ではなくて根本的な研究の本質について尋ねることが多かった。)
    つまりまとめると、いろんな分野の人がいるので、どの研究のレベルが高いとかわからないし、攻撃しようと思って話してくる人なんてほぼいなかった。
    今思えば、査読が通っているからトンチンカンな研究はしていないのだし、堂々と自分の研究を話せばいいだけである。それができれば多種多様な人々から生まれる議論を楽しむことができると思う。
    たとえ言語が違えど、自分の研究を相手に話し、得られたコメントからそれをより良いものにしようと考えることは非常に楽しかったし、本当に貴重な経験となった。




つまり、出発前に私が「国際学会に参加するために必要だ」と思っていたことはあまり重要ではなかった。
それでは、国際学会で発表するときに本当に求められるもの(必要なもの)は何か?

実は、この答えは出発前にほぼ先生からもらっていて、必要なのは「国際会議に参加しよう!」という覚悟だけである、と私は思う。
今回初めてチャレンジしたこの発表も、英語での論文執筆・スライド作成・スピーキング・リスニング・海外での生活などなど、不安をたくさん抱えた状態で突っ込んでいったが、これらのことはほんの少しの慣れと努力でどうとでもなることであった。
実際、私にとって本当にたいへんだったのは英語で論文を執筆する段階だけで、スライド発表がもともと好きな私のような人間にとっては、発表は英語という伝えるツールが少し変わっただけで全然苦にならなかった。
他の部分については、現地でのトライ&エラーを少しずつ繰り返せば数日で全く障害にはならない。
なので全てが終わった今振り返って見ると、論文の査読さえ通ってしまえばあとは楽しい時間が待つばかりであり、もし挑戦権があるのならばそれを手に取らないのは非常に損だと思う。
研究をすることが好きな学生の方々は、新しい刺激が多く得られるものも非常に多いため、ぜひ一度は参加してみてほしい。(私は価値観がぐるっと変わるほどの経験ができた)

末筆ではあるが、この報告書を見た学生が少しでも「国際学会へ参加しよう!」と覚悟を決めていただければ、書いた私としても嬉しい限りである。